忍者ブログ
日々の萌えやくだらないことを書いて発散するブログサイト。 二次創作小説(NL)ありますので注意。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

益田×美由紀連載

「シザンサスの冠を君に」第三話

益田と榎木津
益田ちょっぴり黒い。

小説は追記より



「なんだ。女学生君に会ったのか!」
探偵社の扉を開けた瞬間、益田に向けてよく通る声が投げかけられた。あまりに唐突だったので思わず首を竦ませる。いつまで経っても、この唐突さには慣れない。

美由紀とドライブに行った翌日、益田はいつもどおり勤め先である薔薇十字探偵社に赴いていた。美由紀とのドライブは予想以上に楽しく、そのおかげか多少落ち込んでいた益田の気分もだいぶ回復しつつあったのだが、出勤してすぐの探偵の言葉にいきなり出鼻をくじかれた。気分がほんの少し下降する。
探偵はおそらく益田の記憶を“視た”のだろう。益田は溜息をついた。いい思い出に土足で踏み込むのはやめてほしい。まぁ、この奇矯な探偵にそんな感傷を推し量れなどというのも無理な話なのだが。
大体相手が相手だ。踏み込んできた相手が中野の古本屋や酒飲み仲間の雑誌記者なら益田も特に気負うこともなく追及を受けようものだが、相手がこの探偵となると少し事情が違ってくる。
この探偵は、今現在美由紀の心に影を落としている張本人なのだ。益田にとって美由紀はお互いの思いを共有する「同士」ではあるが、それ以上に可愛い妹のような存在だった。だからいかに尊敬する上司であれど今の益田にとって、この探偵は少々憎らしい存在だったりする。
「墓参りにでも行ったのか」
「は?」
益田の口から、思わず素っ頓狂な声が出た。
「海だろうそれは」
「海?はぁ海には行きましたが。ええと」
海。墓参り。美由紀。ぶつ切りの言葉を並べて辻褄を合わせようと試みる。
「あぁ。行ったのは勝浦じゃないですよ」
千葉県勝浦市。そこにかつて存在したある学院に、美由紀は通っていた。その学院は、榎木津と益田が美由紀と出会うきっかけとなった、ある事件の舞台でもあった。
その学院は現在、事件の余波を受けて解体され既に存在しない。そして勝浦のとある墓地には、その事件に巻き込まれ命を落とした美由紀の親友が眠っているのだ。
勝浦は海に面した漁業がさかんな町だ。榎木津は益田の記憶に視えた海と美由紀を結びつけ、その親友の墓参りに勝浦まで出向いたと考えたのだろう。
「地理的には近いんですがね。勝浦の隣に御宿って町があるでしょう。そこまで行ってきました」
「おんじゅく」
榎木津は鸚鵡がえしに呟いた。
「しらすだな」
やはり、視えたらしい。
「えぇ。美味しかったですよ」


ドライブの行き先が御宿に決まったのは、美由紀の一言がきっかけだった。
「そういえば、勝浦の隣に御宿って町があるでしょう。あそこはしらすが美味しいらしいんです。しらすづくしの定食を出してるお料理屋さんもあるらしくて」
「へぇ」
おそらく学院にいた頃に、噂かなにかで聞いたのだろう。
「いつか食べに行きたいねって、約束を」
してたんです、小夜子と。美由紀はそう続けたかったのだろうが、言葉は途中で切れた。
結局食べられずじまいだったなぁ―――と懐かしそうに尚且つ残念そうな顔で言う美由紀に、じゃあ食べに行こうか、と益田は提案したのだった。
一拍おいて、美由紀は本気で狼狽えた。
「千葉ですよ?遠いじゃないですか」
「なんのための車だい」
「でもガソリンとかっ」
「女の子がそんなこと気にするもんじゃありません」
渋る美由紀をなんとか言いくるめて、益田は行き先を御宿に決めた。幸い益田は鳥口と違って狸惑わしは憑いていないから、千葉くらいまでなら難なく行けるだろう。
運転で疲れたことは疲れたが、しらすづくしの定食を目の前にしたときの美由紀のなんともいえない嬉しそうな顔を見てしまえば、疲れも吹き飛ぶというものである。その後の彼女の美味しそうに食べる顔の、なんと微笑ましいことか。
美由紀のあんな笑顔は、久しぶりに見た気がする。
その後、いっそのこと勝浦まで行って渡辺小夜子の墓に手を合わせに行くかとも訊いたのだが、美由紀は「月命日には毎月父に連れて行ってもらってますから大丈夫です」、と少しだけ寂しげな笑顔を見せた。


「下僕ごときが女学生君とデェトなど生意気な」
榎木津は不機嫌そうに鼻を鳴らした。なんとでも言え、と思いながら益田は自分の席に着く。今の益田は比較的気分がいいから、どんな罵倒も大して効き目はない(まぁ普段もあまり気にしてはいないのだが)。
「バカオロカ」
不意に真剣な声音で、自分のあまり有難くない二つ名を呼ばれた。顔を上げた益田の視線の先には、端整な顔に無表情を浮かべながら見つめてくる探偵がいた。この男は普段が普段なだけに、たまに真面目な顔をすると怖いのだ。彼のそれには、独特の威圧感がある。
榎木津はその表情のまま、口だけを動かして言った。
「あまり女学生君にちょっかいをかけるんじゃない」

その言葉で、益田の頭の芯が急速に冷えた。
恐怖からではない。苛立ちだ。静かな、それでいて確かなそれが、益田を逆に冷静にさせた。

益田は、榎木津という男をそれなりに尊敬している。唯我独尊傍若無人で天衣無縫、益田は彼のせいで迷惑を被ることのほうが多いが、それでも彼は人としてしっかりとした芯を持っていた。
非常識なようでいて榎木津は、自分が大切だと思った人間には彼なりの優しさを持って接している。ただ、榎木津のその優しさは、ときとして残酷だった。それは意図してのものなのか、それとも彼の人間性がそうさせるのか、益田にはわからないが。
そして今回、彼のその優しさが傷つけたのは美由紀だった。

益田は知っている。榎木津が実は、美由紀の自分に対する思いに気づいていたということを。

榎木津は、見て見ぬふりをした。気づかないふりをした。結果として美由紀は自分の思いを持て余したまま、榎木津の結婚を見届けるはめになったのだ。
美由紀が臆病すぎたことももちろん大きい。だがせめて、彼女が思いを告白できるようなきっかけさえあれば。彼女が榎木津への思いを断ち切れる最後通牒さえあれば。彼女はもっと早くふっきれていたかもしれない。
ただ、その残酷さもまた榎木津の優しさの一部分なのかもしれないとも益田は考えたのだ。徹底的に突き放すことで、美由紀に自分自身で立ち直らせようとしているのかもしれない、と。

だったら突き放したままでいればいいのに、と思う。

榎木津は、美由紀の身に男の話が上るのを嫌った。
榎木津が美由紀の周りにいる男に目を光らせているのは、中禅寺が妹を思う気持ちと似ていて、いわば叔父が姪を猫可愛がりする気持ちに近い。しかし、美由紀だってもう出会った頃のような子供ではなく、もうすぐ二十歳なのだ。恋の話のひとつやふたつあったっておかしくないし、また、それに榎木津が口出しする権利もない。男と出かけるくらい(益田とて二人っきりというのはいかがなものかとも思ったがそれは仕方ない)、花の女子大生である美由紀にだってない話ではないだろうに、そうやって榎木津がやたらめったら美由紀を気にかけるからいけないのだ。
現在のところ美由紀は男女交際の経験は皆無だが、それは榎木津が原因でもあるのだ。
榎木津はいつもそうだった。自分の婚約が決まったあとも、美由紀の男関係の話が出ると途端に不機嫌になるのだ。美由紀は気持ちに整理をつけようとしているのに、そういった彼の態度が美由紀の心を鈍らせたのだ。また彼のそんな態度は、恋愛感情からくるものではないから尚更たちが悪い。美由紀は聡明だが、とうの榎木津がこんなでは、もしかして嫉妬してくれているのではないかと勘違いしたくもなるというものだ。
中禅寺も周りが呆れるほどの妹馬鹿ではあるが、榎木津の美由紀に対する態度はそれ以上だ。

勘違いさせるくらいなら、最後まで見て見ぬふりを貫けばいいのだ。

今度は、益田が鼻を鳴らす番だった。
言われたままでは癪だったので、益田は少し悪戯を仕掛けてみることにした。
「僕がちょっかいかけたらいけないんですか」
「当たり前だろう。女学生君が可哀想だ。大体お前なんかが女学生君とデェトなど一億光年早い」
「あんたは美由紀ちゃんの父親でも兄貴でもないでしょうに」
「下僕のお前に女学生君の隣に立つ資格はない」
「下僕でもなんでもいいですがね―――」
美由紀ちゃんだっていつかは誰かと恋愛するし、いつかは結婚しちゃうんですよ。
益田のその言葉に、榎木津の眉根が不機嫌そうに寄せられた。
そのまま窓の方を向いて、不貞寝の体勢に入ってしまう。子供だ。
大体、益田以上に美由紀の隣に立つ資格がないのは、榎木津自身じゃないのか。
だがおそらくそれは、榎木津自身も痛いほどわかっていることなのだろう。そこまで悟って、急激に悲しくなった。

益田は、心持ち鼻白む。すっかり気が滅入ってしまった。
なんだか無性に、美由紀に会いたくなった。

 

拍手

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール
HN:
森村
性別:
女性
職業:
学生
自己紹介:
私生活が結構慌ただしい、一応学業が本文の人間です。目下、就活と卒論に追われる毎日。
バーコード
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析

Copyright © [ したまつげと白衣 ] All rights reserved.
Special Template : 忍者ブログ de テンプレート and ブログアクセスアップ
Special Thanks : 忍者ブログ
Commercial message : [PR]