忍者ブログ
日々の萌えやくだらないことを書いて発散するブログサイト。 二次創作小説(NL)ありますので注意。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


益ミユ・榎ミヤ短編

「この幸せの唄を」(※恋人設定)

お題:空想アリア

小説は追記より



「終わったわ、美由紀ちゃん」
仕上げた帯をぽんと叩かれ、美由紀はようやく顔を上げる。目の前にある姿見を覗くと、先程までとは打って変わってしとやかな雰囲気をまとった少女がそこに居た。
鏡に映る少女が自分とは思えない。美由紀は自分の姿をくるくると見回しながら、柄にもなくめかしこんだ自分に若干気恥ずかしさを覚えた。髪を結い上げ薄く化粧を施し、浴衣を着ている自分。浴衣の柄は白地に桃色の撫子があしらわれたもので、初見ではその可愛らしさに目を輝かせたものだが、自分で着てみるとやはりどこか浮いているような気がしてならなかった。
「美弥子さん…」
美由紀は、自分に着付けを施してくれた張本人である令嬢を自信なさげに仰ぎ見た。柔らかな笑顔で美由紀のほうを見返してくる美弥子は、実に美しかった。彼女も美由紀と同じように浴衣を着て、髪型も化粧もしっかりと整えている。紺地に白い百合の花の浴衣が、いつも凛としている美弥子にとてもよく似合っていた。
「私、変じゃありませんか?」
その美由紀の問いかけに、美弥子は目を一瞬ぱちくりさせるとすぐに微笑んだ。
「とっても可愛いわ。自分にもっと自信を持ちなさいな」
そう言うと美弥子は、美由紀の両肩をぽんぽんぽんと軽く3回叩いた。大・丈・夫。そう言い聞かせるように。
美由紀は姿見を見つめる。笑ってみようと試みたが、随分と不細工な顔になってしまった。
「そうそう。これを忘れていたわね」
思い出したように声をあげた美弥子はふっと美由紀のもとを離れ、後ろの棚の上に置かれていたたものを取り上げた。美由紀のもとに戻ってくると、美弥子はそれを美由紀の髪にバランスよく配置する。
薄い桃色の花飾り。見覚えのあるそれに、美由紀はそれを自分にくれた男の笑顔を思い出した。花飾りは、美由紀の黒髪によく映えた。
もう一度鏡に向かって笑いかけてみると、思ったよりすんなりと笑えてなぜだか胸が温かくなった。
「それじゃあ行きましょうか。殿方がお待ちかねだわ」
美弥子の言葉に、美由紀は元気良くはい、と返事をして彼女の後に続いた。



和室から出て探偵社の事務所に入ると、退屈そうに椅子に座っていた探偵が目に入る。
彼は美由紀と美弥子の姿を確認した瞬間、ぱっとその大きな瞳を輝かせた。
「おぉっ!かーわいいぞ二人ともっ!」
そう言うやいなや、榎木津はつかつかと美由紀たちに近づいてきて、物凄い速度で二人いっぺんに両腕に掻き抱いた。美由紀は思わず声にならない悲鳴をあげたが、美弥子はこのような行動に慣れてしまっているようで、「榎木津さん、せっかく着付けた浴衣が崩れてしまいますわ」と呆れたように言った。
榎木津は可愛いなぁ可愛いなぁとしきりに言うと、美由紀に向かって
「女学生君!君も僕たちと一緒に祭りをまわりたまえ!君をあのバカオロカにくれてやるのはもったいない!」
と言い放った。
美由紀が返答に窮していると、どこからか「なぁに失礼なこと言ってるんですか」という声が聴こえた。声のしたほうに視線を向けると、別室で私服に着替えていたらしい益田が事務所の入り口に立っていた。
「両手に花なんてそんな羨ましい状況にはさせませんからね榎木津さん」
美由紀たちのそばまで歩み寄りながら、益田は軽く鼻を鳴らした。それとほぼ同時に、美由紀の隣に立つ美弥子が溜め息をつく。
「そうですわ榎木津さん。美由紀ちゃんは益田さんのためにこんなにお洒落をしたのですわよ」
ねぇ?と美弥子が美由紀に同意を求める。美由紀がためらいがちにこくりと頷いてみせると、榎木津は唇を尖らせた。美弥子の目に、悪戯っぽい光が宿る。
「だいたい、榎木津さんはそばにいるのがわたくし一人じゃご不満ですの?」
美弥子がちろりと視線を榎木津に向けると、彼は「可愛い娘が多いことに越したことがないじゃないか」と言った。美弥子の瞳は、ますます面白そうに光る。
「だったら榎木津さんは、お祭り会場で気に入った女性を手当たり次第に誘ってくださいませ。あなたに誘われたらどんな女性でもついていきますわ。女性たちに囲まれながら、お祭りを楽しんでくださいな」
そして美弥子は最後に、「わたくしは美由紀ちゃんと益田さんとまわります」と言い放った。
その言葉に、榎木津はぐぬぬ、という効果音が聞こえそうな顔をした。
「それは駄目だ」
「わたくしと一緒に行ってくださるのなら、他の女の子に声はかけられませんわよ?」
「あぁ」
榎木津の返答に、美弥子は嬉しそうににっこりと笑った。
「―――わたくしもあなたの喜ぶ顔が見たくてお洒落をしたのだということを、忘れないでくださいませね」
美弥子の言葉に、榎木津は一拍置いて心底楽しそうな笑顔になった。
「うん」

二人のやりとりをはたで見ていた美由紀と益田は、顔を見合わせてくすくすと笑った。そしておもむろに、益田が咳払いをする。その音で、榎木津と美弥子の視線が彼に向けられた。
「あー、仲良しはそのへんで結構ですから、二人ともさっさと出発してください」
「益田さんたちはどうするんですの」
「少し遅れて出ますよ。二人だけの時間を邪魔しちゃ悪いでしょうし」
僕らも邪魔されたくありませんしね、と益田は笑って続けた。



榎木津と美弥子が出て行ったあと、益田は美由紀に向き直った。無言でじっと見つめられ、美由紀は落ち着かない気分になる。
お願いだから、なにかしら喋ってほしい。
沈黙に耐え切れなくなり、美由紀はとうとう口を開いた。
「…あの、そんなに変、ですか」
自信のなさからか、言葉の語尾は消え入るような小ささだった。
目の前の益田は、美由紀の言葉にきょとんとした顔をしている。だがやがてその表情は、ふんわりとした笑顔に変わった。
「まさか」
そう言って、益田は美由紀の目線に合わせるように少し屈んだ。瞳をじっと覗き込まれて、美由紀は顔に熱が集まるのを感じていたたまれなくなった。
「すっごく可愛い」
噛み締めるように言い終えると、益田はゆっくりと美由紀を抱きしめた。榎木津と違って、労わるような抱き方である。益田の肩に顎を預け、美由紀は彼のぬくもりをもっと感じようと目を閉じた。
やがて目を開け頭を少し横に動かすと、真っ赤になった彼の耳が目に入った。
彼も照れている。その事実に、美由紀は少しむず痒いような感覚を覚えた。

「僕があげた髪飾りもつけてくれてるし」
「はい」
「化粧までしちゃって」
「―――可愛い、ですか?」
「可愛くないわけがないでしょ」

抱きしめたまま耳元でそんなことを言われて、美由紀は嬉しさとくすぐったさで思わずふふふ、と笑ってしまった。
 

拍手

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール
HN:
森村
性別:
女性
職業:
学生
自己紹介:
私生活が結構慌ただしい、一応学業が本文の人間です。目下、就活と卒論に追われる毎日。
バーコード
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析

Copyright © [ したまつげと白衣 ] All rights reserved.
Special Template : 忍者ブログ de テンプレート and ブログアクセスアップ
Special Thanks : 忍者ブログ
Commercial message : [PR]