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青木×敦子短編

「不摂生な感情を人は恋と呼んだ」

お題配布元:空想アリア


小説は追記から



青木は、自分は女性との縁がもともと薄い人間なのだ、と思っている。
 
実際、今まであまり女性と深く関わった覚えがない。戦時中に特攻隊にいた頃などはもってのほかで、あの頃頻繁に関わりのあった数少ない女性といえば特攻隊員たちが懇意にしていた食堂の女将くらいだ。
かといって青木は、女性経験が無いわけではない。しかしそれは成り行きで“そう”なってしまったというなんとも不甲斐ない過去なのだが、それは本当に一度きりの関係に終わったため、青木にとってまともな“恋愛”と呼べる代物ではなかった。つまりその経験は御国のために命を散らす前の隊員たちの“思い出作り”の一環であり、しかも青木の意思とは無関係に上司から用意されていたものだったから断るわけにもいかなかった。相手が、そうやって春を鬻(ひさ)ぐことを生業としている女性であったから尚更だ。そんな関係はよほどの思い入れがない限り続くものではない。
だから正直、青木には恋愛というものがよくわからなかった。

今の自分の状態は果たして恋愛と呼べるものなのか、それすら青木にはわからなかった。
一人の女性に好意を寄せて、柄にもなくうろたえて、かつその思いを持て余している。そんな自分を、青木は思い切り怒鳴りつけてやりたかった。しかしそうやって歯噛みしたくなるほどの醜態を晒しているのは、紛れもなく青木自身なのだ。そう考えるとやりきれない。
青木が敦子に対して抱く思いは、好意であることは間違いない。特別な感情だと、おおむね認めてもいる。
ただ、それを口に出して言い表すうまい言葉が見つからなかった。
「好き」。果たしてこれでいいのだろうか。「大好き」。これは気恥ずかしい。これを素直に口に出せるほど、青木は可愛げのある人間ではない。「愛してる」。こんな壮大な言葉ではない。この言葉を言えるほど、青木はまだ愛の意味など知らない。
おそらく「好き」が一番近いのだろうが、“好き”だなんて青臭い感情は自分の性に合わないと青木は思った。確かに自分は人間としてはまだまだ半人前にも満たないが、かといって素直に馬鹿になれるほど子供でもなかった。
だから、たちが悪いのだ。
おまけに、自分が敦子に対して抱く感情は「好き」という一言で表せるほど単純明快なものではなかった。もっと複雑ないろんなものを孕んでいてそれはきっと、重い。自分で、取り落としてしまいそうなほどに。
いっそ伝えてしまえば楽になれるのかもしれないが、告白しようというその決意には至らなかった。
敦子を、困らせはしまいか。迷惑には、ならないだろうか。
そうやってまた延々と悩む。
敦子を混乱させるくらいならいっそ伝えないほうがよい、などと勝手に理由をつけて、結局青木が守ろうとしているのは自分自身だった。
拒絶されたくない。傷つきたくない。
自分は卑怯だ臆病者だと自らふれまわる男を青木は一人知っているが、今の自分はその彼よりも、卑怯で臆病者なように思えた。

 
だからこんな状況に陥ったとき、どうすればいいかわからないのだ。


か細く耳障りな音をたてる街灯。人気のない道。一番星。
目の前には街灯に照らされている、顔をこれ以上ないくらいに真っ赤にさせた敦子。
私は青木さんが好きです。
ずっと前から。
今言わなきゃって、思ったんです。
先程敦子から告げられた言葉が、青木の頭の中をぐるぐると回る。
目の前の敦子は何故か泣きそうな顔をしている。
何故そんなに悲しそうなのか。
何故。
敦子は今紛れもなく、青木の顔を見つめている。
青木は。自分は。今。
どんな顔をしている―――?

「ぼ、くは―――」
つっかえながら青木が口を開くと、敦子はあっと声をあげた。
青木が吃驚して敦子を見れば、彼女は申し訳なさそうな表情になった。
「あ、あの、今返事がほしいとか、青木さんの気持ちが知りたいとかそういうことじゃなくって……私が、伝えたかっただけですから」
この機会を逃したらもう言えないと思って、と、敦子はまたも儚い笑顔を見せる。
「ですから―――忘れてください」
その敦子の言葉に、止まっていた青木の思考が動き出す。
忘れる?
今の言葉を?
どうして。
敦子の視線が逸らされ、彼女は身を翻す。―――立ち去ろうとしている?
「っ、僕は!」
咄嗟に声をあげた青木に、今度は敦子のほうが吃驚したようだった。勢い良く振り向くと、目を丸くして青木を見返してくる。

敦子は、狡い。青木自身も十分狡いが。
彼女は自分の伝えたいことだけ伝えて、青木にはなにも言わせてくれない。

ならば尚更、今言わねばならない。

青木とてこの機会を逃したらきっと、敦子に自分の思いを伝えられないだろう。
「僕は……敦子さんが」
視線を宙に彷徨わせながら、必死で言葉を探す。目の前には、右手で胸の辺りを握り締めて泣きそうな敦子。
自分の心臓の音が、どくどくと耳に響く。
頼むから、そんな顔をしないでほしい。
胸が、締めつけられる。
「僕も、あなたが、好き、です」
口にするには気恥ずかしく、言葉としては単純すぎると思っていた「好き」の二文字は、意外にすんなりと青木の唇を通り抜けた。
敦子が、零れそうなほどに目を見開く。その目から一筋の涙が流れ落ちる。涙はその後も絶えることなく、敦子の両目から零れ続ける。思わず俯いた敦子の華奢な肩を見ながら、青木はうろたえた。自分はなにか、気に障ることをしただろうか。
「敦子さ…」
青木がためらいがちに呼びかけると、敦子は俯いたまま首を大きく横に振った。そして顔を上げる。その目からは依然として涙が零れていたが、敦子は照れたように笑っていた。さっき、と口を開く。
「青木さんを、困らせてしまったと思って」
涙を拭いながら、敦子は笑う。困らせるのだけは嫌だったから、だからいっそ忘れてほしかった、と、そう言った。
青木はその言葉に、思わず安堵する。臆病なのは、敦子も同じだったのだ。相手を困らせたくないと思っていたのは、彼女も一緒だったのだ。そして急速に情けなくなる。そこから一歩を踏み出すのは、敦子のほうが早かったということだ。青木は敦子に思いを告げられなければ、いつまでも悩み続けていたのだろう。
自分の情けなさにうなだれたくなる。
ただ。
 
情けないなら情けないなりに敦子を守りたいと、そう、思う。

「嬉しい」
輝くように笑う敦子の目から、また一筋涙が零れ落ちる。青木は慌ててスラックスのポケットからハンカチを取り出そうとしたが、やはり、やめた。
敦子に向き直り、恐る恐る手を伸ばす。指が震える。指先が、体が、熱い。
ありったけの勇気を振り絞って、涙に濡れる敦子の目尻をそっと拭う。滑らかな肌だった。
気づけば、二人の距離はだいぶ近づいていた。青木は、すぐ目の前にいる敦子を見つめる。出会った頃と大して変わっていないはずなのに、敦子はひどく綺麗になったように見えた。
「敦子さん」
敦子の丸い大きな瞳が、青木の姿を捉える。敦子の瞳の中に映る自分を見て、青木はなんだかおかしくなった。―――なんて情けない顔だ。
そんな自分の顔を見ながら、青木は敦子に告げた。
これは敦子への誓いでもあり、自分への誓いでもあった。

「大事に、します」
「だから―――そばに、いてください」

敦子が、笑う。穏やかな、滲み入るような笑顔である。
恐る恐る抱きしめて、肩に顔をうずめてみる。
守らねばならぬ。この薄い肩も、細い腕も。強い瞳も。
いとおしい彼女の全てを、この手で。

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