忍者ブログ
日々の萌えやくだらないことを書いて発散するブログサイト。 二次創作小説(NL)ありますので注意。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


益田×美由紀 短編

「愛し君に告ぐ」

益田→美由紀
益田がやたら語ってます

小説は追記から



一人の女学生が、広い部屋の中をせわしなく行き来する。
そのたびに、紺色のセーラー服の裾が益田の視界の隅で翻る。
微笑ましいと同時にどこか切なくなったのは―――なぜだろうか。

ある平日の気怠い昼下がり、応接用のソファーに座ってなにとはなしに物思いに耽っていた益田は、不意に視界の真ん中に入り込んできた少女に目を丸くした。和寅の手伝いを終えた美由紀が、自分の近くまで寄ってきていたのだ。
「どうかしたんですか?」
「へ?僕?」
声が裏返る。どうやら、思考の随分と深いところまで沈んでいたらしい。
「そうですよ。ここには今、私と益田さんしかいませんから」
「あれ、和寅さんや榎木津さんは?」
「和寅さんはお買い物です。探偵さんは煙草買いに行ってくるって」
全く気づかなかった。探偵や和寅が出かける気配すら、気にも留めていなかったようだ。
にこにこと邪気のない笑みを浮かべる美由紀に、さてどうしたものか、と益田は思案する。
まさか、君の事を考えていた、とクサイ台詞を告げるのもどうかと思う。
「さっきからぼーっとしてましたよ。なにか考え事ですか?」
美由紀の問いに、益田は苦笑を零す。
「ちょっとね。―――これからのことを考えてた」
その答えに、美由紀は不思議そうな表情をした。「これから…」と呟いた直後、その顔は酷く不安げなものに変わる。
「まさか益田さん、この探偵社を辞めるって言うんじゃ―――」
「あぁ違う違う!僕じゃなくて、美由紀ちゃんの」
言った直後に、しまった、と益田は舌打ちをしたくなった。
美由紀があまりに悲しそうな表情をするものだから、うっかり言ってしまった。
「私?」
美由紀が眉根を寄せて首を傾げる。その可愛らしい仕草に思わず笑みを浮かべながら、益田は気を取り直して、ソファーに座る自分の隣の空いている場所をぽんぽんと叩いた。美由紀は素直に、そこに座る。
随分信用されているものだ、と思う。益田がなにも考えずした行動に従っただけとはいえ、こうも無防備に大の男の隣に座っていいものだろうか、と少し心配になりながらも、益田は口を開いた。
「美由紀ちゃんはさ、今17歳でしょう」
「はい」
「あと1年ちょっとしたら学校を卒業して、進学するか就職するか―――いずれにしろ、今よりはるかに広い世界に出るわけでしょう」
そう…ですね」
美由紀が怪訝そうな表情になる。益田の意図するところが読めぬのだろう。
自分とて、こんな真面目な話をするのは柄じゃない。
だが、今言わなければ駄目な気がしたのだ。
「僕が言いたいのはさ―――いろんな人と出会って、いろんな経験してほしいってことだよ」
美由紀のまっすぐな目が、益田を見つめてくる。綺麗な目だ、と思う。
自分とはまた違う、ちゃんと物事を見極められる目。
「世の中は広いから、いろんな人がいる。人によって好きなことも物事の考え方も、全然違う。中には自分と正反対の意見の人もいるけど、そういった人やその考え方を、自分と違うからって頭ごなしに否定せずに、まずは受け入れてみる。そうやってたくさん受け入れたものの中から、一番自分に合ったものを選択する。そうすると、おのずと道は開けてくるから」
「私のこれからの道…ですか?」
「そう。それこそ今いる女学校なんて狭い世界の中での話じゃなくてね。その先のさ」
自分でも、なぜこんな話を美由紀にしているのかわからない。だが益田は、ついさっき、唐突に焦り始めたのだ。
彼女の世界を狭めてはいけない、と。
彼女はこんな狭い探偵社ではなく、もっと広い場所に出て、いろんな人からいろんなことを吸収するべきなのではないか、と。

彼女とて、つきあいのある人間がこの探偵社の人間だけだというわけではない。中野の古本屋やその周りにいる大抵の人間と、美由紀は知り合いである。
けれど、“そこだけ”なのだ。
かつてあの閉鎖された空間にいた美由紀は、家族以外の人間との繋がりが極端に希薄だった。学院の元同級生も今は離ればなれになったきりつきあいはなく、今の学校の友人たちとも仲良くはしているが、当たり障りのないつきあいをしている程度である。美由紀が唯一親友と呼べた少女は、かの事件により既に故人だった。
美由紀は、榎木津や益田を筆頭とした周りの大人たちからは可愛がられ、また守られている。そして美由紀もそんな大人たちを慕い、彼らからいろいろなことを吸収している。
しかしその“周りの大人たち”は、非常に曲者で偏った人間ばかりなのだ。そことばかり交流をもっていては、美由紀自身も偏った人間になりかねない。
彼らはそれぞれ尊敬すべき人たちではあるが―――美由紀には彼らの持たぬ、“普通”の感性も知ってほしいのである。

かつて一度、彼女の“世界”は粉々に壊れた。
そこからまた彼女は歩き出し、今ここに立っている。
だからこそ、“ここ”にだけ留まっていてはいけない。
 
「そうやっていけば、いずれ夢も見つかるかもしれない。いい男に巡りあって、恋をするかもしれない」
「恋…」
「恋はたくさんしたほうがいいよ。特に女の子は、恋をすると綺麗になるらしいから」
「本当ですか?それ」
「敦子さん情報だから間違いないよ」
胸を張って言えば、それなら間違いありませんね、と美由紀はくすくす笑った。その笑顔に、胸の辺りでなにかが軋むような音がした。

出来ることならずっと、ここにいてほしい。
だがそれでは、おそらくいけないのだ。
彼女がセーラー服を箪笥の奥にしまうとき、彼女が「女学生」ではなくなるとき、彼女はもっと、世の中の向こう側に目を向けなければならぬ。

「でもなかには嫌な男もいるから、もしそういう奴に泣かされたら僕のところにおいで。愚痴ならいくらでも聞くし、泣きたいときは胸も貸すから」
僕にとって美由紀ちゃんは、可愛い可愛い妹みたいなものだからね。
おどけてそう言ってみせれば、美由紀は一拍置いて花開くように微笑んだ。
「こんな頼もしいお兄さんがいる私は、きっと幸せ者ですね」
「こんな可愛い妹がいる僕も、きっと幸せ者だな」

美由紀の“特別な人間”になりたいとは、益田は微塵も思っていない。いつか美由紀が誰かと結ばれる日が来ても、彼女自身が選んだ男との門出なら、祝ってやれる自信がある。
 
だから自分は、今の位置でいいのだ。

美由紀にとっては少し年の離れた兄のようで、なんでも話せて、泣き顔も無防備な姿も晒してくれるこの位置が、一番心地よい。
美由紀の心の片隅に、目立たずとも常に存在し続ける男でいられれば、それでいいのだ。


拍手

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール
HN:
森村
性別:
女性
職業:
学生
自己紹介:
私生活が結構慌ただしい、一応学業が本文の人間です。目下、就活と卒論に追われる毎日。
バーコード
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析

Copyright © [ したまつげと白衣 ] All rights reserved.
Special Template : 忍者ブログ de テンプレート and ブログアクセスアップ
Special Thanks : 忍者ブログ
Commercial message : [PR]