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益田×美由紀連載

「シザンサスの冠を君に」第二話

敦←益→←美由→榎

小説は追記より



美由紀はしきりに、現在の状況を不思議に思っていた。どうして自分は今、この男と一緒にドライブなどしているのだろうか。

「というか益田さん、運転出来たんですね」
運転する姿は、それなりにさまになっている。
「一応、元警察官だからねぇ。警察車両を運転する機会だってないわけじゃあなかったし」
相変わらず飄々としている。口調は軽いのだが、真意が読めない。
窓の外を流れる風景を眺めながら、美由紀は昨日の出来事を反芻する。
大学の講義もない土曜の夕方、なにをするでもなく家でごろごろとしていた美由紀の部屋に下宿の管理人がやってきた。連れて来られたのは管理人室の電話の前で、よく見ると受話器は上がっていた。
出てみると、益田だった。
明日は暇かと訊かれ、予定はないと答えたらこうなった。「明日の朝十時に迎えに行くから、おめかしして待っていてね」―――美由紀の返事を待たずに、電話は切れた。どことなく、有無を言わせぬ雰囲気だった。
わけのわからない展開にしきりに首を傾げながらも翌日、おめかし、までいかずともそれなりに節度をもった身なりに準備していると、益田がやってきた。外に出てみれば変な形の車が下宿の前に停まっていて、益田の顔を訝しげに見上げれば彼はにっこりと笑って「ドライブ」と一言だけ言った。

こうして今日日曜、現在の状況に至る。
「車、どうしたんですか」
「鳥口君に借りた」
あぁいや正確に言えば鳥口君の上司か―――と益田は言う。なるほど、と美由紀は思った。彼の上司は車の改造が趣味なんだっけと、以前中野の古本屋が言っていた話を思い出した。
「で、なんでいきなりドライブなんですか」
「いやぁなんとなく」
「益田さん」
誤魔化されそうな気がしたので、強めの口調で名を呼んだ。振り回されるのは結構だが、理由を言ってもらわなくちゃ困る。彼は視線だけ一瞬美由紀のほうへ向けると、またすぐ前を見た。心なしか、悲壮な表情をしている。口元だけで、美由紀ちゃんには敵わないなぁ―――と呟いた。
「聞きたい?」
「聞かなきゃ納得できません」
「そっかぁ」
ほんの一瞬だけ益田の顔から表情が消えたが、それはすぐに自嘲するような笑みに変わった。
「敦子さんに会ってね」
それも向こうは、夕飯の買出しの途中だったらしくて、と益田は続ける。美由紀は、話し続ける益田の横顔をじっと見つめた。
「記者として働く敦子さんの姿しか知らなかったから、不意打ちっていうか、なんか面食らっちゃってさ。いかにも若奥さんって感じで、あぁ幸せなんだろうなぁって」
話をしているときの益田の顔は、やはりなんの感慨も籠っていなかった。事実をありのまま話しているだけ、そういう顔だった。
「僕ァ、美由紀ちゃんに比べればふっきれてるつもりだったんだけどなぁ」
「私に比べればってどういう意味です」
「だってそのとおりでしょう」
「私、益田さんが思ってるよりずっとふっきれてますよ」
そう。美由紀が探偵に特別な感情を抱いていたのは事実だが、自分の中でそれなりのふんぎりはついているのだ。今更あの恋が叶うなんて可能性は微塵も考えていない。少し、心の中に抜けない棘のようなものが残っているだけだ。それとて時間が経てば消えるだろう―――その「時間」がどのくらいのものなのか、美由紀にはまだ見当もつかないが。
今は、美由紀の中に「探偵を好きだった」という事実があるだけだ。それは現在進行形の思いでは、きっとない。
そう、思いたい。

いや僕もふっきれてるつもりなんだけどさ、と益田は続けた。
「いざ会っちゃったらなんか、未練とかそういうんじゃなくて―――それこそ昔好きだった人への複雑な感情みたいなものが出てきちゃって」
「それって未練じゃないんですか?」
「未練ではないねぇ」
なんて言ったらいいかわかんないけど、と益田はそこで話を区切った。
なんとなく消化不良に見舞われていると、益田はまた口を開いた。
「だから、このもやもやをすっきりさせたいと思ってね。鳥口君に頼み込んで車まで貸してもらって、ドライブに繰り出したというわけさ」
ちょっとした傷心旅行のようなもの、と言いたいらしい。
「なんで一人で行かなかったんです」
「一人で行くドライブのなにが楽しいっていうのさ」
そこまで言って益田は、けけけ、と笑った。
「可愛い女の子が隣にいてくれたら、そりゃあ気分も晴れるってもんでしょうよ」
益田の目が、ちろりと美由紀を見た。なんて調子のいい。
「ひとまわりも年下の小娘にまでおべっか使わなくてもいいんですよ。益田さんったらいつもそうなんだから」
「おべっかなもんか。美由紀ちゃんは可愛いよ」
益田があまりにも事も無げに言ったため、美由紀の息は一瞬とまった。思わず益田から目を逸らす。
最近、益田といると調子が狂う。
美由紀は、可愛いと言われることに慣れていない。以前探偵にもさんざん言われたが、それだって最後まで慣れることはなかった。

「可愛い」、なんて。
特別な人にだけ言えばいいのに、と思う。

「それとも」益田の声が、美由紀を現実へと引き戻す。
「榎木津さんに可愛いって言われるほうが嬉しかった?」
不意に投下された爆弾に、美由紀は息を呑んだ。驚いて益田を見れば、悪戯に成功した子供のような顔をしている。だがそれはすぐに、申し訳なさそうな表情に変わった。

考えを、読まれた。
悔しくなって、美由紀の目に少しだけ涙が滲んだ。益田は、狡い。
「―――益田さんの、意地悪」
「うん、ごめんね」
美由紀は溜息をついた。やはり、自分で言うほどふっきれてはいないのかもしれない、と思い直す。結局自分は事あるごとに探偵を思い出している。そしてまた、この恋が叶わないものだということを思い知らされるのだ。
不毛である。馬鹿である。けれど仕方ない。それが、今の美由紀なのだ。
そこまで自覚すると、少しだけ心の重さがとれていることに気づいた。
つまりさっきのあの発言は、益田なりの荒療治だったというわけだ。
そこまで考えてふと気づく。この“傷心旅行”は益田だけのものではなくて、きっと―――。
美由紀は、もう一度益田を見た。もう彼は、何事もなかったように運転を続けている。

結局、益田の調子に乗せられている。
その状況がまた少し悔しくなって美由紀が益田の横顔を恨めしげに見上げていると、その視線だけがこちらに寄越された。美由紀ちゃん―――と益田が口を開く。
「涙目で上目遣い―――なんて表情は、好きな男以外に見せちゃ駄目だよ」
なっ、と思わず口から声が漏れた。瞬間、美由紀の顔にもの凄い速度で血が上る。顔が真っ赤になっていくのが、自分でもわかった。

誘っている、とでも言いたいのか!

「まっ、益田さんの変態!!」
美由紀が思わず叫べば、益田はあっはははは、と盛大に笑い出した。
「美由紀ちゃんは可愛いなぁ―――」
「もうっ、益田さんなんか知らない!」
えぇ、それは困るなぁと嘯(うそぶ)きながら、なおも益田は楽しげに笑う。
「でも付き合わせるのはこっちだし、今日は美由紀ちゃんの行きたいところに行こう」
ね、と益田が笑う。
「……なにか美味しいものが食べたいです」
ほら、やっぱり。乗せられている。
「いいよ。奢る」

結局うまく誤魔化された気が、しないでもない。
でもまぁいいか、とも思った。
思ってしまった。

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