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日々の萌えやくだらないことを書いて発散するブログサイト。 二次創作小説(NL)ありますので注意。
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短編:三馬鹿

「ある若者たちの集い」

三馬鹿in居酒屋。益ミユ・青敦要素あり。
注:鳥ちゃん酔ってます。彼がかなり不憫です。
それでもいいよ!って方は追記からどうぞ。


通い慣れた居酒屋の席上、青木文蔵は途方に暮れていた。
なんでこうなった。さっきからこの言葉が、青木の頭の中を何度も巡っていた。数十分前までは、確かに楽しい酒の席であったはずなのに。青木は頭を抱えたくなった。
斜め向かいに座る益田龍一を見遣れば、困り果てたような力無い笑みが帰ってくる。お調子者の笑顔も、今はただただ悲壮感を漂わせていた。
この状況の原因である男―――青木の向かい側かつ益田の隣に陣取る男は、卓上に突っ伏しなにやら愚痴とも寝言ともつかぬ言葉をむにゃむにゃと呟いていた。おそらく、夢の世界へと旅立ちかけているのだ。さっきまでの弾丸のごとき饒舌ぶりが、嘘のように落ち着いている。
「……いやぁ、凄かったですね」
「うん。なんとも言いようがないな」
「僕ら、あんな風に思われてたんすねぇ。あー吃驚した」
「まぁ、いろいろ溜まってるんじゃないか、彼も」
「というか、中禅寺さんと榎木津さんの話ですけど」
「彼は中禅寺さんの家をしょっちゅう訪ねてるから、おのずと情報は耳に入るんだろうな」
「僕ァ、明日あのおじさんに会うのが怖いですよ」
「なにを言ってるんだい。今の今まで普通だったんだろう。気にすることないじゃないか」
「青木さんこそいいんですか。中禅寺さん、というかお義兄さん」
そこまで言われて、う、と青木は口籠った。負けじと言い返す。
「君だって、榎木津さんは義理の兄のようなものだろう。君の奥さんを思えば―――」
「青木さん論点ずれてます。ていうか、だから怖いっつってるんじゃないですか」
益田が、心底厭そうに顔を歪めた。

事は、数十分前に遡る。いつものように三人で酒を飲んで、そろそろ終電だし帰るか、という話が持ち上がった頃である。いつもなら三人の中で一番酒の強い男―――鳥口守彦が、珍しく酔っていた。ちなみにダントツに酒の弱い青木は、だいぶセーブして飲んでいた。が、それでも多少は酔っていたのだ。
「昔は終電逃すなんて当たり前だったすけどねぇ。二人ともすっかり家庭人になっちゃったなぁ」
えへへ、と上機嫌そうに笑いながらも、鳥口の目は笑っていなかった。これはいろいろとまずいのじゃなかろうか、と青木の背に嫌なものが流れた。酔いが醒めていくのを自覚しながら益田を見れば、その顔は珍しく無表情だった。いつもと違う鳥口の様子から、なにかを察したのだろう。青木と目が合うと、困ったように笑った。
きっと鳥口は悪酔いしてしまったのだろうとあたりをつけて、とりあえず勘定を済まそうと青木が席を立った次の瞬間―――。
堰を切ったように鳥口の口から言葉が迸った。

「いいですよ二人は。家に帰れば可愛い奥さんが待っていてくれるんでしょう。僕なんか未だに独り身ですからね、家に帰ったって誰も居やしませんよ。しかも青木さんの奥さんは敦子さんでしょう。いいなぁ青木さん。青木さん知ってました?僕だって二人がつきあい始めるまで、敦子さんのこと好きだったんですよ―――」
ひっ、と益田が息を呑む音が聞こえた。青木の思考も完全に停止した。
そうか。鳥口は、悪酔いするとこうなるのか。
いつもはまず、青木が真っ先に潰れるのだ。だから青木は鳥口の酔い方を知らない。そもそも鳥口が自分を見失うほど酔った話など、益田からも聞いたことがなかった。
まさか、敦子に対するかつての思いまでぶちまけられるとは思わなかった。

青木は、鳥口が敦子に思いを寄せていたことを知っている。そしてそんな自分と同様に、鳥口自身も、青木がかねてより敦子に好意を寄せていたことをわかっていたはずだ。それは、同じ女性に思いを寄せる者同士の勘とも呼べるものだった。
青木は奥手で、むしろ敦子とうまくいく可能性は鳥口のほうが高かったはずだ。だからこそ青木は、敦子から好きだと告白されたときは天にも昇るような気持ちだった。
敦子とつきあいだした旨を鳥口に伝えたのは青木自身だった。なにを言われるかと内心どきどきしていたのだが、それを聞いたときの鳥口の反応はなんともあっさりしたものだった。やっぱりなぁ、と呟いたあとに、敦子さんを泣かせちゃ駄目ですよ―――と告げられた。
そのときは、彼は彼なりに敦子への思いに整理をつけたのだろうと思っていたのだが―――なんで今頃。

鳥口の心情吐露は、これだけでは終わらなかった。
火の粉が―――益田に飛んだ。
「益田君もなぁ。てっきり僕らと同じように敦子さんを好きなんだとばかり思ってたのに、蓋を開けてみたらちゃんと別の女の子がいるんだもんなぁ。青木さんが敦子さんとつきあうって知ったとき益田君と飲み歩くしかないなって思ってたのに、君は君でちゃっかり幸せ掴んでるんだもんなぁ。しかも美由紀さんは十二歳も年下じゃないっすか。犯罪ですよ犯罪―――」
今度は青木の口から、ひっ、という悲鳴が漏れる番だった。益田は完全に諦めた顔で、「ちゃっかりじゃなくてしっかりって言ってくださいよ」と、わけのわからないつっこみを呟いていた。
確かに益田と美由紀は、出会った当初はかたや二十代後半の社会人、かたや中学生だったから、それを鑑みると二人の恋愛を犯罪と言いたくなる気持ちもわからなくはないが、いまや美由紀だって二十代だし、そもそも二人がつきあいだしたのは美由紀が大学に進学してからだ。なにか大きな間違いが起きたわけじゃなし、年の差だけをあげつらって犯罪と騒ぎ立てるのは偏見である―――と青木は思う。
そこまで考えて青木は、まぁ今の鳥口の発言をそう重く受け止める必要もあるまい、と思い直した。
簡単に言えば、鳥口は所帯を持つのが羨ましいだけなのだ。相手が敦子だろうが美由紀だろうがそんなことはどうでもいい。一緒に遅くまで酒を酌み交わす相手がいなくなったのが寂しいだけなのだ―――と結論づけた。
確かに自分が今の鳥口と同じ立場だったら、愚痴りたい気持ちも寂しくなる気持ちもわかる気がする。
益田も同じ結論に達したらしい。やれやれという顔で鳥口を見ている。

しかし。
最後に鳥口は大きな爆弾を落とした。
「敦子さんは師匠の妹さんだし、美由紀さんは大将が娘か妹みたいに可愛がってるから、二人ともこれから大変すよ。万が一あんたたち夫婦が喧嘩して敦子さんか美由紀さんが師匠や大将に泣きつこうもんなら、きっと二人とも師匠にゃ呪われ大将にゃぼっこぼこにされますよ。師匠は前から本と敦子さんのことに関しては神経質でしたから、青木さんそのうち胃ィ痛めるんじゃないですか。大将もこのまえ師匠の家で会ったときに言ってたんですがね、益田君の記憶にほんの少しでも泣いてる美由紀さんが視えたら、益田君を半殺しならぬ四分の三殺しにするって―――」
そこまで言って鳥口は黙り込み、突っ伏して意識を手放し始めた。

卓に沈黙が落ちる。青木も益田も黙っていた。
そして―――冒頭に至る。


なんだか、どっと疲れた気がする。
「とりあえずどうする、これ」
青木は、すっかり寝入った鳥口を小突いた。起きる気配はない。益田が時計を見る。
「終電も逃しましたしねぇ。かといって置いていくのも、店の主人に悪いですし」
「仕方ないから送っていくよ。僕はいつも世話になってるから」
「つきあいますよ。鳥口君大きいから一人じゃ大変でしょう―――っと、その前に、家に電話してもいいですか?」
「あぁ、僕もしようかな」
益田が立ち上がり、主人に店の電話を貸してもらえるよう頼みに行った。青木も重い腰を上げ、勘定を済ませに行く。
もしもし美由紀?という声を耳にしつつ金を払い終えると、えっ?という言葉ののち に、益田が電話口から青木を呼んだ。
「なんだい」
「敦子さんがいるそうです」
「は?」
面食らいつつ、青木は受話器を受け取って耳に当てた。
「もしもし」
『もしもしあなた?』
「敦子。どうしたんだこんな時間まで」
『今日ね、美由紀ちゃんと一緒にお出かけしてたのよ』
そのあと美由紀ちゃんの家でお茶をご馳走になったらそのまま話し込んじゃって、と敦子は続けた。
「なんの話をしてたんだい」
『まぁ、野暮なことは訊かないでください』
そう言って敦子は、ころころと笑った。大方、お互いの夫の愚痴でも言い合っていたのだろう。女というのはそういうものである。
愚痴の内容が悪いものばかりでなければいいのだが、と青木は思った。なにがどう彼女の兄に伝わって、いつ彼の逆鱗に触れるか知れたものじゃないのだ。敦子を悲しませる自分は想像できないが、中禅寺に呪われる自分は想像できなくもない。おそらく益田も同じはずである。日々榎木津にこき使われ下僕だオロカだと罵倒されている益田にとって、榎木津に懲らしめられる自分の姿は想像に難くないはずだ。しかし益田は美由紀のことをなにより大事にしているから、そんな彼が易々と美由紀を泣かせることはないだろう。
『帰りは何時頃になりそう?』
「結構かかりそうだなぁ。もし家に着いたら先に寝てて―――あ」
青木は益田を振り返った。怪訝な顔をする益田に、ある提案を持ちかける。益田は話を飲み込むと、まぁいいんじゃないでしょうか、と笑った。青木は電話に向き直る。
「敦子。このあとのことなんだが」
『なあに?』
「鳥口君が潰れちゃってね。これから益田君と二人がかりで送っていくつもりなんだが、何時頃帰れるかわからないから、君は今日は益田君の家に泊まってきてくれないか。美由紀さんには、益田君から言ってくれるよう頼んだから」
『まぁ、鳥口さん大丈夫?』
「寝てしまっただけさ。君には家で先に寝ててもらおうかとも思ったんだが、女一人鍵を開け放して寝るのも物騒だろう」
『それはそうだけど…』
敦子はなおも不服そうである。美由紀に申し訳ないと思っているのだろう。
「鳥口君が、家に誰も居ないから寂しいんだとさ。僕らが結婚して最近つきあいが悪くな ったからなお不満らしい。だから今日くらいは、朝までつきあおうかと思ってね」
茶化すように言ってみる。かつての思い人に醜態を晒してやるのもどうかと思ったが、これくらいは許してほしい。先ほど青木だって、鳥口の発言に肝を冷やされたのだから。
そういうことなら、と敦子が言った。納得したらしい。
『鳥口さんも、早くいい人を見つければいいのにね』
今の敦子の発言は鳥口に伝えるべきではないだろうな、と思った。そうだね、と軽く返しておくに留める。
『じゃあ、気をつけてくださいね。美由紀ちゃんにかわります』
「あぁ。おやすみ敦子」
『おやすみなさい』
会話を終えると、青木は益田に受話器を渡した。仲がいいですねぇ、と冷やかされたので、君んちには負けるよ、と返しておいた。益田が電話に出たときに受話器の向こう側から、龍一さん?という可愛らしい声が漏れ聴こえてきた。

妻たちはこれからまた、夫の愚痴話を繰り広げるのだろうか。
敦子と美由紀が仲良くしていることは、好ましいことだと思う。姉妹のように二人で談笑している姿は花が咲いたようで、見ているほうが微笑ましい気分になる。
ふと、中禅寺の細君と関口の細君を思い出した。あの二人も、連れ合って出かけるくらい中が良いのだという。
もはや腐れ縁と言ってもいい四人組に、二人の良妻。
自分たち三人と妻たちも、数年後あたりには彼等と似たような関係になっているのだろうか。

ある晴れた日の夜に青木はふと、そんなことを思った。

 

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